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Architecture and Things

今やっていること、これからのこと少し

昨年末にアイルランドにきてから、早いものでもう7ヶ月が経とうとしています。滞在は1年間の予定なのですでに折り返しを迎えたことになる。

 

妻と一緒にお互いの国から毎日更新している「9hours」の数字を見ると、もうこんなに日数が経ったのかあと、時間の早さに驚かされます。 

 

さて。このエントリでは自分のなかでの考えの整理として、僕がアイルランドで今やっていること、そしてこれからのことを少しだけ書き残しておきます。

 

今やっていること、大きくふたつ

1. ダブリンにある語学学校の専属フォトグラファーをやっています

もともとこちらでローカルジョブをするつもりは無かったのですが、すっかり惚れてしまったアイルランドへの貢献につながると考えたから。

主な業務のひとつは、世界各国から語学学校にこられている生徒さんの撮影。学校が主催しているアクティビティや旅行に同行し、旅行先の魅力やたくさんの笑顔を撮影しています。

ポートレートは専門ではなかったため、人物を撮るということについては多くの学びと共に進めており、多くの国籍や文化の違いを越えて「どうすれば被写体との距離を縮められるか」を考えることはとても良い刺激になっています。

学校の訴求点とはサービスや価格が考えられますが、仮に僕が通いたい学校を探すとしたらその学校にどんな人がいるのか、そこに人の笑顔がどれだけ溢れているかを知りたい。という想いをもとに学校の人となりを写真を通して伝え、他国からこの学校に興味をもってくれる方を一人でも増やすこと。アイルランドにきてくれる方を増やすこと。それが学校ひいてはアイルランドにとって僕が貢献できることだと考えています。

人だけでなく建物も外せません。もうひとつ取り組んでいることは、周辺環境も含めた建物外観やインテリアなど空間の魅力を伝えること。

下の作例はマーケティング用のツールとして撮影した建物外観の写真です。特にこの学校では今年の始めに外壁の塗装補修を終えたばかりですが、せっかく綺麗に生まれ変わった建物の写真がないことが問題のひとつでした。

目の前に運河が流れる素敵なこの学校でのお仕事については、もう少しマーケティングに切り込んだ仕掛けを残したいと思いますので帰国まで全力で取り組みたいと思います。

 

2. 建築系スタートアップ・フリーランチさんとのお仕事を進めています

こちらは日本の企業とのお仕事について。建築・不動産業界を軸とした新しい働き方を提案する企業であるフリーランチさんは、建築に特化した転職エージェントや建築系企業の広報やマーケティング顧問など、建築業界での新しい領域の拡大に取り組まれています。

フリーランチさんが運営する建築系メディア「フリーランチ流仕事術」は、建築・建設・不動産業界について、ちゃんと本当のことを、お伝えされているとても貴重な場所であります。

個人的に、「『売れる』は設計できる」 という代表・納見さんの想いに共感しており、昨年に日本でお会いして以来、何か一緒にできればと考えていました。

今のところは海外から行うことができる事のみですが、長いお付き合いができれば幸いです。

 

これからのこと少し

話は変わりますが、VALUを始めました。

▶︎タナカユウキのVALU

「想いをもった個人と、応援をしてくれる方とを繋ぐ」というこのサービスから、評価経済の到来をいよいよ感じた方も多いことかと思います。

何かしらの挑戦をしたい方が資金的支援を受けやすくなるという側面もありますが、個人的には「応援してくださる方とつながり、そのつながりが可視化されること自体が、心地よく長く挑戦し続けるための原動力となる」というのが一番の魅力だと思いました。そういう意味では、たとえばこれから海外で挑戦したいことがある日本人の方にとっては、日本の応援者の方たちとつながる拠り所になりそう。そんなサービスです。

VALUを始めてみて少し驚いたことがあります。

それは建築家というカテゴリーの人の少なさ。僕が始めたこのタイミングでさえ、サービス開始からすでに2ヶ月が経とうとしていますが、建築家というカテゴリーに属している方がとても少ない。僕が応援したいなあと当初考えていた建築関係者は全くいませんでした。

大規模でないけれど素晴らしい建築を生み出し続けているローカルの設計事務所さんや、面白い取り組みをされている建築家さんたちを応援するのにうってつけのサービスだなあと感じていたので、それが出来ないもどかしさを感じます。

 

「売れる」を設計し「伝え方」を考えるということ

さて。VALUを例にあげましたが、これは当然といえば当然かもしれません。建築業界では「売れる」ための仕組みや「伝える」手法の設計については、他の業界に比べて遅れをとっていると思うのです。言い換えると、それを積極的に行おうという考えが薄い。もちろん今はまだその問題は顕在化していないし、本当に問題になってしまうのはまだ先の話だとも思います。

 

「建築」というと、一般的には「建物を設計する人」と「工事を取り仕切る監督」の大きくふたつの仕事がイメージされるのではないでしょうか。実際にはもっと細かく分別はされますが、こういった道の他にもう1つの道が開拓されるべきだと僕は考えています。

それは「マーケター」。つまりは「売れる」ための仕組みを考え、事例ごとに最適な「伝える」手法を設計する役割です。事例によってはコンセプトの再定義から行う必要があるだろうということから、コンセプターとも呼べるかもしれません。名前にこだわる必要はありませんが、この役割を担う領域が建築業界内で拡大する必要があります。

日本ではまだまだ新しい建物を建てる需要はありますが、長い目線で見ると、新しい建物を建てるという発想から、既存の建物をどう活かすか・どう長持ちさせるかという視点が今よりもさらに大切にされていくでしょう。

しかしながら「新しい建物を建てる」というイメージが湧きやすいこととは対照的に、「既存の建物の活かし方」とは手法が多岐に渡るうえに「そもそも何故それをやるべきなのか」「どういったメリットがあるのか」ということが、広く理解されづらいという背景がある。

後者の必要性が高まるにつれて、建築の専門家同士で理解するだけで良かった建築業界内では、知らない方・興味がない方に伝えることの重要性がさらに高まり「ひろく・やさしく・むだなく」伝えることができる役割が建築業界の分野のひとつとして必要になるはずです。

 

PRプランナーと建築系企業とのミスマッチを防ぐために

そのような背景もあり徐々にではありますが、売れるための伝え方の大切さについては建築業界でも注目がされ始めています。その結果、建築系企業のマーケティングの一環として「伝え方」のプロであるPRプランナーが起用されることがありますが、予想以上の成果が得られずミスマッチで終わることが少なくありません。

なぜならば、建築サービスが売れるための仕組みを考え、それを伝える手法を設計するためにはマーケティングだけではなく専門的な建築知識が必要になり、その壁を越えることが一般のPRプランナーにとっては難しいからです。

これはすごくもったいないことです。このようなミスマッチは、本来の実力を発揮できないPRプランナーと依頼主である建築系企業どちらをも不幸にしてしまいます。

こういった事象を減らすという視点でも、建築実務経験者を前提とした「伝える」プロが必要なのです。

もっと先の話をすれば、地震が多いという国柄と日本人の繊細な価値観から開発されている・そしてこれから世に出て行く新しい建築技術や素材は、海外からの需要もさらに高まるでしょう。そんなときに適切な伝え方をもって日本と海外をつなぐ役割も担うべきなのが、建築業界内に在籍するマーケターであると言えます。

 

建築家たちに、良い仕事をし続けてほしい

この発想の根源には「建築家という人たちが大好きだ」という個人的な理由がある。

売り方・伝え方が効果的でないという理由だけで、本当に素晴らしいアイデア・デザインが注目されず、本当に稼ぐべき方たちが稼ぐことができず、労働負荷や精神的なストレスで建築業界全体が疲弊してしまってはいけないと考えるからです。

修行という名目で過酷な労働環境や薄給が当たり前になってしまっている業界のルールも変わらなくてはいけないし、もっと言えば、デザインを生む分野での疲弊が、現場監督をはじめ建設現場に従事する方たちの過労につながるという事例もできる限り無くしたい。

個人的にもともと建築をデザインすることを志していたけれどそれが向いていないと諦めた立場である分、それを真剣にやっている方を尊敬しているし、その方たちの未来に貢献したい。

建築家や建築系企業が素晴らしいデザインやアイデアを生み出し続けるのであれば、「売れる」ための仕組みと「伝える」手法の設計についてはあとは任せてと胸を張って言いたいし、長い目で見るとそう言える人・それを行う領域が建築業界には必要なのです。

 

そんなに簡単な話じゃないよ?

そんなことが未来の建築業界を変える打ち手になるの?

 

それが難しいことくらい言われなくても分かってるよ。痛いほど。「この先、建築業界には『ひろく・やさしく一般の方に伝える』べき人が絶対必要になる!」って思い行動を始めたのが2年前。そして今、2年の歳月をかけて行動をしても何も変えられていない僕自身が、それが難しいことなんていちばん分かっています。

 

しかしながら、やっぱり僕はここまで書いてきたことがこれからの建築にとって必要だと考えているので、今自分にできること・やるべき事を淡々とやるまで。そう思っている次第です。

ネガティブなアドバイスをくださる方も含めて、将来必要とあれば僕が救いたい。なぜならば、素晴らしい建築を"つくって"いる方たちを本当に尊敬しているから。

 

思いのほか長くなってしまった。

 

キャリアについて考えたときに、キャリアに一貫性があったほうが良いかどうかという議論があります。特に専門性を高めるためにはキャリアに一貫性があったほうが当然良い。

ですが、凝りかたまった業界のなかに新しい領域をつくる場合、一見すると全く関係なさそうなことにも期間を定めて全力で取り組んでみるということが僕は大切だと信じています。

 

建築とは、人の暮らしの基盤です。そういう意味ではどれだけ道を逸れていそうでも建築に繋がっていく。なぜならば、人の暮らしの基盤だから。「建築」ひいては「暮らし」に貢献できたら僕は幸せです。

 

以上、アイルランドでの話と、これからのことを少し。今年いっぱいはもう少しだけ道草していきたいと思います。芯は持ちつつ。

 

生存確認先▶︎ 9hours – Medium

VALUアカウント▶︎ タナカユウキのVALU