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Architecture and Things

建築の楽しさに触れられる、やさしい建築本10冊

建築というと難しい顔をしながら腕を組んで考える、そんな分野に捉えられがち。専門家同士の会話はときに格好良いものですが、その間口が広がるともっと素敵なことが起こるはずだ。

これは、僕が「今」とそして「将来」につながる行動を起こすテーマの1つです。

さて。「建築」に興味があるけれどどんな大学に進むのが良いのか・どんな本で勉強をすると良いのか。というご質問を高校生の方からいただくことがありました。

基本的に実体験をもとにアドバイスをしたいので、大学を出ておらず高専の本科卒業の身としては大学については一般的なことしかお伝えできませんでした(高専は全力で勧めたけど)。

後者の「本」についてはお勧めがありまして、このブログにも記録として残しておきたいと思います。選書にあたっては「建築の面白さが分かるもの」そして「やさしいものである」ことを基準としています。

したがって、建築への興味を抱きはじめた方、今まさに建築を学んでいるけれど建築の面白さを見失ってしまった、そんな方にうってつけの10冊であると思います。

 

1. 住宅建築家 三人三様の流儀

日本の住宅建築家といえば真っ先に挙げられるであろう御三家。その3人が飲んでいるのを覗き見るような一冊です。

本書の構成は、それぞれの住宅設計の思想が語られ、最後に自分が設計した建物に他の2人を招き、そこで対談を行うというもの。その一連の流れが3人分まとめられています。

なんというか、自分が好きな人たちが仲良く宜しくやっている様子って良くないですか?それを最大限に楽しめるのが本書のいちばんの見どころだと感じます。

少しマニアックな部分だと、「好きな寸法」というテーマで3人が語り合うパートが特に好きで、建築に興味のない方にとっても「ああ、建築やる人たちってこんなこと考えてんのね」という新しい目線が得られます。

丁寧にその魅力が切り取られた作品写真も多く、そういった点でも、気軽に読んでも楽しめる一冊です。

 

2. 普通の住宅、普通の別荘

私の設計する住宅は建築家のコンセプトや主義主張をそのままかたちにした「作品」ではなく、そこに住まう市井の人々の暮らしを丸ごと放り込むことのできる「容器」です。
主役はあくまでも建物ではなく、そこに住む人たちであり、そこで営まれる暮らしです。
その「容器」が、知らず知らずのうちに、暮らし方、住まい方の文法を導き出し、愛情をかけて住み込むことによって少しずつ成熟していって欲しいと願っています。

1冊目の著者のひとりである中村好文さん。中村さんが手がけた住宅はいつだって「普通でちょうどいい」。
そんな中村さんの住宅と、そこで営まれる生活が感じられる写真からもそれがひしひしと感じられる。そして、その住宅のクライアントにまつわるエピソードからは中村さんのお人柄や、この方は本当に良い仕事をしているんだなあということが感じられます。

前半にまとめられた『明月谷の家』では、目の前に広がる山が絶妙に切り取られた窓。それを撮影した1枚の写真に心を奪われました。研ぎ澄まされたセンスで設計された窓の様子は建築に興味のない方でも痺れるはず。

本書後半では、中村さんの自邸『Lemm Hut』についても詳しい解説があり、実験的にエネルギー自給自足を試み、環境共存についての英智が集められたその建築に感心しきり。
本当にすごい建築家だ。と改めて実感した一冊です。

 

3. 1000%の建築 

建築家 谷尻誠さんによる、モノゴトへの考え方がまとめられた一冊。まるで仕掛け絵本のように本のつくり自体が面白く、文章についても建築関係なく楽しめる構成になっています。

谷尻誠さんは、住宅や会場構成、ランドスケープなど手掛ける領域は広く、本人のお人柄自体もとても魅力的な方。
月1ペースで、自分の事務所に、多方面のプロを呼んで対談をしたり、好きなバンドを呼んでライブを開催したりと、建築の枠にとらわれない生き方に「ああ、人生を楽しむってこういうことだ」と感じます。

よく谷尻さんが言っている『名前をとる』ということについて。

名前をとると、使い方だって多様化していきます。
たとえば「コップ」。「コップ」というものの名前を一度頭から追い出したうえでそのものを見つめてみると、飲み物を飲むための道具だったものが、
「あれっ、もしかするとこれで金魚が飼えそうだな〜」とか、
「お花を生けて花瓶として使おうかな」といった具合に、
様々な可能性が広がるのです。
こうやって名前がないものに向き合うこと、そんな子どものような視点こそが、新しいデザインを考えるうえでとても大切だと思います。

挿入されているイラストも可愛いらしく、「なんだかあの人は面白いことを考えているぞ」という人の頭の中を探検しているような一冊です。

 

4. 世界の美しい空港

空港好きにはたまりません。建築デザインの視点で、日本を含め世界の40空港が紹介された一冊。

空港は、その国の玄関であり、多くのドラマが生まれる場所です。人と人とが出会うとき、初めて会ったときの第一印象でほとんどのことが決定づけられるのと同じように、その国に初めて訪れたときの第一印象は、空港での体験でほとんど決まるといっても過言ではありません。

それは特に、外面としての「建築デザイン」と、内面としての「サービス」によって。

例えば、日本では、空港に到着した飛行機が、再び空に飛び立つまでの時間は平均50分(国内線の場合)とされています。
お客さまを降ろし、機内清掃、乗務員間での打合せ、次のお客さまの搭乗‥‥などなどを約50分の間で終えなければなりません。

これを実現するためには、運行に関わるスタッフのスキルや経験など、人としての力はもちろんですが、緻密に計画された動線や、施設・設備の設計など、建築としての力も、実は重要な役割を担っています。

ちなみに、僕はこの一冊がきっかけで航空建築の道に進むことになりました。人生何があるか分からないものですね。

 

5. ダーク・レンズ

建築系出版社エクスナレッジの奇襲。

こちらの一冊は、ヨーロッパなどの実在する街並みに対してスターウォーズに登場するモデルを溶け込ませるというコンセンプトの写真集です。

写真一枚一枚が本当に格好良くて、スターウォーズが好きであるかどうかは全く関係なく、多くの方が楽しむことができる一冊。「日常の中に溶け込む非日常」を切り取った写真が個人的に大好きなのですが、本書はまさにそのツボを押してくれます。

建築系の出版社でありながら、たまにこういうのをぶっこんでくるので、エクスナレッジさんからは本当に目が離せません。

ドバイの近代建築とストームトルーパーの組み合わせが最高だったり、パリの廃墟とジャバザハットなんてもう痺れるほど格好良くて、もうとりあえず、これを読んだらどなたか飲みませんか。そんな感じの一冊です。

 

6. 目を養い手を練れ

建築家としてだけでなく、教師としても情熱を注ぎ続けた宮脇檀さん。その軽妙な語り口で住宅設計のいろはに触れることができる一冊。

多くの生徒に人気のあった宮脇さんであるからこそ書ける、頭に入りやすい構成・文章、そして、味のあるスケッチたち。

作中のスケッチを眺めているだけでも十分に楽しく、建築関係者だけでなく、それ以外の方も楽しめる内容に仕上がっていると感じます。

個人的には、建築士の製図試験の際にとてもお世話になった一冊でもあります。凝り固まった試験といえど、設計者の思いを伝える図面を描かなくてはいけないということ。

『敷地を読む』
住宅の設計は、「設計者」と「住み手」、「敷地」の三者が出会ったときに始まり、
良い住宅は、その出会いがうまくいったときに生み出される。

特にこの章については、住宅に限らず全ての建築設計に通ずるものだと感じます。
建築を学ぶなかでふと立ち止まるとき、いつも思い返すのは本書で学んだ知識たちです。

 

7. Mies van der Rohe / Photographs by Yoshihiko Ueda 

写真家 上田義彦さんによって撮影されたミース・ファン・デル・ローエの建築たち。

個人的に1番好きな建築であるファンズワース邸が、上田義彦さんによって撮影されているというだけで心臓が高鳴ってしまいます。

森を歩いていくなかで、ファンズワース邸の白い直線がふっと視界に入ったときの緊張感みたいなものが見事に表現された写真たち。思わず、息を呑みました。

内装についても、巧みに納められたサッシやドアのレバーハンドルなど、この建物の魅力である細かな設え。それらが上田さんならではの見事な構図で切り取られているということ。その奇跡にただただ、溜息がでます。

装丁も素敵だなあと思ったら、原研哉さんによるもの。何から何まで贅沢な一冊です。個人的には妻からクリスマスプレゼントでもらった大切な一冊でもある。

 

8. 3びきのこぶた ~建築家のばあい~

有名な童話である3びきのこぶた。そのこぶたが皆、建築家だったら‥‥という設定のもとでストーリーが展開されてゆきます。

それぞれのこぶたの身なりや建てる家に実在した建築家のエッセンスが込められていたり、インテリアにいちいち名作プロダクトが使われていたりと、刺さる人に刺さる面白さがあります。

物語自体は新解釈というわけではないので、大筋のストーリーは原作どおりで、さらっと読める内容になっています。という点では子供向けの絵本としても使えるので、将来ご自分のお子様を建築家にしたい場合、幼少期からの建築教育にうってつけかもしれません。

 

9. 聴竹居: 藤井厚二の木造モダニズム建築

2015年の6月には天皇陛下も来訪されたという住宅「聴竹居」について、その歴史と魅力がまとめられた一冊。今回ご紹介する本の中でもいちばん専門的なものかもしれませんが、この建築の素晴らしさは建築とは生き物であるという根源的な面白さを教えてくれるという点で、今回のリストに迷わず加えました。

京都は大山崎町に現存する「聴竹居」は、1920年代に建築家 藤井厚二によって設計されました。日本の気候について考え抜かれたつくりから、理想の日本住宅であると言われています。

当時、欧米視察を通して最新の建築スタイルに触れた同氏による聴竹居は、和洋それぞれのデザインを絶妙に取り入れた内装も大きな特徴。

本書では、そんな内装も含めてマニアックな部分まで分かりやすく解説がされています。また、たっぷりと写真が添えられているため、視覚的にもその良さを感じることができる優しい解説書でもあるのです。

 

10. パン屋の手紙―往復書簡でたどる設計依頼から建物完成まで

建築家である中村好文さんと、そのクライアントである神幸紀さんとの手紙のやり取りを軸に、一軒の素敵なパン屋さんが出来るまでが綴られた一冊。

パン屋を営む神幸紀さんからの、設計依頼の手紙をきっかけに物語が始まります。

神さんのパンにかける熱い思いとこだわり。単に建築家としてではなく一人の人間として、それらを優しく受け容れ、形にしていく中村さんの人柄と技術。

2人の手紙のやり取りを読み進めるうちに、ひとつの建物が完成するまでの物語にぐいぐいと引き込まれます。

気づいたら、まるで成長する子供を見守るように、建物の完成が待ち遠しくなっていて。

最終の設計案に辿り着いたときや、もともと神さんがセルフビルドした元の建物が作り替えられるとき。仕上がった建物の写真を、最後にぱっと見せられたときなど、思わず泣きそうになってしまいます。

僕は中村好文さんの手がける優しい建築が大好きなのですが、より一層大好きになってしまう。そんな一冊です。

 

番外. the ARCHITECT says

最後に番外。こちらは現在滞在しているダブリンで購入した一冊。

歴代建築家のセリフの原文(英語)と、それに対する和訳が添えられています。ダブリンで購入したものには和訳がないのですが、こちらのリンクから購入できるものについては和訳が添えられています。

もともとカフェなどで過ごす時間のお供に購入したものですが、「こういう表現もできるのね」と英語の勉強にもなります。

「英語学習×建築」という少しトリッキーなご紹介でこの記事を締めたいと思います。

 

この記事がどなたかのお役に立てば、僕は嬉しいです。